歌丸 a.k.a. Shiro、Mummy D、そしてDJ Jin……キング・オブ・ステージ、もしくはロック・ボックス2000。彼らが遂にアルバムをリリースした。待ってた人も多い筈。だが、まずはアルバムのこと自体じゃなくて、最初に歴史的なこと…Rhymesterのこの3人はどうやって一緒に始めることになったかを尋ねてみたんだ。
Shiro(以下S):その話、いきますか?
●もしよかったら。
S:学校が俺とDが一緒で、そこにソウル・ミュージック研究会っていうのが御座いまして、で、そこが、毎年、やっぱ、新人勧誘みたいのやってて、門のところにターン・テーブル置いて、音鳴らしていて、「イェイ、イェイ」みたいな。で、当時はそういうの珍しい…ターン・テーブル2台並べて音鳴らしてる馬鹿っていうのは珍しくて、んで、そこ通りかかる心ある…。
Mummy-D(以下D):その気のある…。
S:…その気のある有志ある若者が毎年そこにゴキブリ・ホイホイみたいに引っかかる(笑)。
D:今ではさ、高校生とかすぐ周りにパーティやってまーすみたいな奴がいたと思うけど、当時はディスコ・ミキサーすら入手するのが困難な時代で(笑)。
●なるほど。
D:だからゴキブリホイホイ。
S:そう。だから、「すっげー」とか近寄ると、びしっ!と。
D:引っかかる(笑)。…でね、おれがそこ通った時は、そこでS.H.I.R.O.がラップしてたんだ。もうその当時フリースタイルっていうのを始めててさ。
S:オイ! そりゃ嘘だよ(笑)。
●その頃既にヒップホップに入り込んでた?
S:自分で遊びでラップやるようになってから、B-フレッシュとか出会って、こういう人達もいるんだとかって(思って)…いとう(せいこう)サンとか近田(春夫)サン(注:両者とも日本のヒップホップの黎明期にラッパーとして作品を発表している)とかもっと前からファンで、ライヴとか行ってたんだけど…タイニー・パンクスとか。でも、(その頃は)自分でマイクを握ろうとは思わず…。
●B-フレッシュ3とは何処で出会ったんですか?
S:…とはコンテストで出会った…で、俺は嘘英語(注:アメリカのラップのルーティンを適当に拾って作り上げたリリックという意)でやってたから、で、B-フレッシュと出会って、あ、こんなやり方あるんだって思ったね。優勝が(現在エンジニアの)Illicit TsuboiとKCDのゴールド・カット。でも、B-フレッシュと俺らと準優勝ぐらい貰ったのかな? で、(俺は)「俺よりラップ巧い奴いるわけねぇ」ぐらいに思ってて(笑)。
●みんな最初はそう思ってるんじゃない? 特に当時はヒップホップ自体が丸ごと新しい経験だし、文化だし。
D:俺は前からリリック書いてて…あ、でもよく考えたら、あれラップじゃなかった。ホントは。レゲエの偽もんみたいなやつ…(照れ笑い)マイク握って何か…。
S:でもランキン(・タクシー)さんとか出ていたし、(そういう先駆者がレゲエのフィールドにはいたから)自分らでも出来るんじゃないかなって思うじゃん?
いわゆる歌以外の日本語を使った表現ってことでランキン・タクシーはいくら賞賛しても足りない筈。彼が始めたことで多くの人に影響を与えた…。こうしてラッパーが揃い自然とそのクルーにDJが加わり彼らは活動を開始する。93年にリリースされたファースト・アルバム『俺に言わせりゃ』もより日本語でより日常的な表現をする意欲的な作品だったが、セカンド・アルバム『エゴトピア』は日本のヒップホップ・クラシックであり、史上最も重要な10枚にランク・インされるだろうアルバムとなった。その前後に「無類のビッグ・ダディ・ケーン好き」、もしくは「1人ジュース・クルー」(何?)として知られていたDJ JINが加入、そして誰も忘れていないだろう昨年の「B-ボーイズム」現象があり、1999年東京と横浜からやって来た、ランDMCを聴いて育った3人が用意したのが、新しいアルバム『リスペクト』。
S:俺らコンセプト・アルバム作るタイプじゃないけど、やっぱ、アルバム全体の方向とか色とかってさ、アルバム・タイトルとかで決めときたいっていうか、それでようやく舵が見えるところがあったから、で、俺の中では″カタカナ5文字″とか色々(条件が)あったんだけど……ある日、″リスペクト!″、先行シングルの流れで、今俺たちが置かれている位置などもあり、サード・アルバム『リスペクト』!、これしかねえ!って。
D:(『リスペクト』というのを聞いて)もう一発でそれだなって思った。
S:名古屋のラッシュでライヴ終わった後によく判らなくなっている状態(注:とても気分がいい感じということ)で、俺はもう思いついてて、「D、D、アルバム・タイトル、『リスペクト』でどうかな?」て言った…この人(DJ Jin)はしばらく知らなかった(笑)。俺がそういう状態で言ったから(笑)。
●最初の「R.E.S.P.E.C.T.」は笑える。
S:頭は、あのトラックで始めようっていうのは決まってて、スーパー声で導入しようっていうのは決まってて、で、何を喋るかって色々やったけど(真面目にやったら)詰まらなくなってきて(笑)。で、やらなくてもいいかぐらいまでいったんだけど、じゃ、最後やってみようってアドリブやったのがあれ。
D:一発で。
S:もうやりながら、(良く聞くと判るけど)「クク」とか笑いを堪えているところがあって、で、(録って)これいくでしょ、みたいな…あんまり重苦しく捕らえられてもね。最初にカックンさせてやろうって(笑)。
●なるほど。
D:ファンキーなものって必ずユーモアあるじゃない? それが無いと、単なる格好良いものになって、格好良い要素だけで曲作ると格好悪いみたいな。
S:そう、単なる格好良いは格好悪い。
D:そういうのが常にあるから。
●S.H.I.R.O.のエロチカギャグも光っている。
S:こういうの入れなきゃ気が済まない。ライヴだと○ンコ/ま○こ言ってりゃいいんだけど、○ンコ/ま○こ言わずに、こう、放送しちゃいけないことは何も言ってないよみたいな、さ、ま、そういう感じ…ポール・バーホーヴェンじゃないけど、一見普通のエンターティンメント映画に見えるんだけど、実は極めて悪質みたいなのが好きだから。
D:(ライムは)より自分に近くなった。前よりあんまり気負わないで書いてる。一時攻撃的なリリックも多かったけど、実際、普段の自分はそんな攻撃的じゃないし、ホントの自分に近い感じになってる。普段の自分を出すだけで、それでヒップホップ。
彼らがこう言えるのは、何もない時代からヒップホップを作ってきたのは自分たちだから。Crazy-Aやボーイ・ケンを迎え、ヴァラエティに富んだ堂々全14曲が公開。4年待った価値は十二分にある。彼らに尊敬の念を!