"King Of Diggin" ことMURO待望のアルバムが遂にリリースされる。タイトルは『Pan Rhythm : Flight NO. 11154』。そこには音楽を愛して止まないMUROならではの″リズム/音の旅″が展開されている。
この夏イチバンのカーナヴァル・ソング「El Carnaval」はもうチェックした? で、ビックリした? ラテン調のトラックというのは勿論、Muroとしても初めての試み。DJとしてのMuroは、ラテン、ブラジル物もよくプレイしているのでそう考えると″演っても不思議ではない曲″なのだが、このクオリティの高さは本当に並じゃない。Muroのその南国音楽に対する造詣、愛情の深さが滲み出ているのだ。
「自分では実験的な曲でしたね。シングルとしても季節がメインになってる曲って "Dig On Summer" くらいでしたから。こういう曲って自然な感じに作るのは本当難しいと思うんですよ。紙一重、ですね」。
既に聴いた人なら、その″自然さ″に驚いた事だろう。生ギター、ブラジリアン・ヴォイス・パーカッションの導入も含めて極めて自然。K.O.D.の懐はこんなにも深い。そして、同EPで巴里のトム&ジョイス、倫敦のコールドカットにリミックスを依頼した意図を考えると、アルバム『Pan Rhythm Flight No.11154』のテーマが見えてくるだろう。そのテーマはズバリ″リズムの旅″。
「ベースは骨太なヒップホップ、なんですけどトータル的に世界っぽく、ごちゃまぜな感じにしたかったんですよね。だから機内アナウンスのスキットとかもイタリア語でやって貰ったり。ただリズムというキーワードを追っかけるのは昔から変わってないですね」。
"King Of Diggin" Muroにとってヒップホップとは、このアルバムの中にある「Patch Up The Pieces」でもうたわれている通り「全世界食わず嫌いしない、全ジャンル自分のものだけに変えられる唯一のジャンル」に他ならない。Muroが何故ヒップホップを360度体現出来る男なのかと言えば、それはMC、DJ、トラックメイカー、レーベル・オーナー、デザイナーとして、様々な角度からヒップホップを表現しているからなのだが、例えば服のデザイン一つとっても、様々な時代のテイストの異なる要素を自分なりに組み合せて作り上げている。これをヒップホップと呼ばずに何と呼ぶ? そして、この待望のフル・アルバムでは、そうしたMuroの″パッチワーク作業″が″リズム/音の旅″というキーワードのもとにトータル・アルバムとして表現されているのだ。その中にはあの弦の魔術師、エヴァートン・ネルソンが指揮を執った「Bo-hemian」から、ピート・ロック、フレディ・フォックスとの「Patch Up ThePieces」、D.I.T.C.のダイアモンド、O.C.、との「Lyrical Tyrants」といったMuroにしか出来ない濃いコラボもある。
「ピート・ロックはやっぱりドラムが太くて、感心させられますね。スクラッチも凝った事はしないんだけど気持ちいい感じで。ダイアモンドはもうスーパー・プロデューサーでしたね。海外の人とやる時はトリッキーなフロウとか色々試みてるんですよ」。
驚くべきことに本作の外部プロデューサーは、そのピート・ロックとダイアモンドのみで、他は全てMuro自身によるプロデュース(一部、DJワタライが共同制作)となる。つまり本作は″プロデューサーMuro″としての記念すべき初アルバムでもあるのだ。
それは、ガブリエラ・アンドレアスのスキャットをフィーチュアした「Castaway」や、大物ヴァイブ奏者ロイ・エアーズの「The Vibe Obsession」、K.O. D.P.#17のBOOが歌うインナーサークルの隠れ名曲「Jah Music」のカヴァーといったトラック・メイキングに徹した曲でも明らかだ。
「インストは2〜3曲は入れたいな、と思ってました。最近はライナー・トゥルビー・トリオやU.F.Oのリミックスとかインストの仕事もやってたし、色々可能性があって好きなんですよね」。
触れなければならない曲は、まだまだある。あの名曲「病む街」のパート3(ツイギー、リノ参加)、ステッツァソニック「Hip Hop Band」のリメイク、K.O.D.P.期待のGorikiとの「Stealthy Footsteps」等々、聴きドコロはアルバム全部(更に初回盤にはトラック物の7吋盤も付く!)。
ここまで自由にやってちゃんとヒップホップ作品としてスジが通ってる、という事実は感動的ですらある。全音楽ファンに無条件にオススメしたい傑作! 間違いない。