DJ KRUSH - 斬/ON LINE RIDDIMより

●まずは″漸″というキーワードについて聞きたいんですが?

「音も世の中も含めて、これに至ったかなって。俺には、″21世紀に向けて!″みたいなアルバムはもう『Mi-Light』で終わってるんで、もう、今までのように少しずつ普通にいこうよ、みたいな感じかな。で、21世紀だから、″よっしゃ″みたいなのはないかなって(笑)」

●その話を聞きたいですね。

「あれ、作ってるときに、もう、そう思っちゃった」

●そうなんですか? 自分のなかで区切りがついたってことですか?

「うん、自分もそうだし、多分、あれで区切りをつけたかったのかな、あれで」

●その区切りは、どこからDJ Krushのなかで始まったんですか?

「ファーストぐらいかな?」

●結構長い期間ですね。

「うん…だから、早かったかなって。『Mi-Light』を出すのが。だから、俺はもうあそこで21世紀だったから。逆に、今″未来″なんだけど、そこは通り越しちゃって、で、だからあらためて21世紀、とか、″新しい″とか、″奇抜″とか全然考えてなくて、今回は。うん。『覚醒』とは裏っかわの自分を出した、みたいな。で、年の話になるけど、年齢いった人たちが聞けるヒップホップを作りたいよね、やっぱり。詩の内容にしても、あと、家族で旅行したときにふっとこう鳴っててもおかしくないっていうのをそろそろ作ってみたいなって。時期が時期で、今結構アブストラクトとかインストもすげえ増えたじゃん、なんかさ、うん。だからそこにいるの飽きちゃったし、みんな今更なんでそんなこと言ってるのかなと思うし、普通に戻っていこうかなって」

●普通に戻っていくっていうのは?

「奇抜にとか、そういうテイストは入れたつもりはない。ただ、今までやってきたことは曲によっては生きていると思うし、あと、もうちょっと聞きやすいものっていうのは…意識はしたかな?」

●ゲストが多彩ですね!?

「大変だったよ。予定決めるのが大変だったよ。何が大変ってそれが一番大変だったよ、スケジュールをさ〜。みんな忙しいじゃん?ルーツはルーツでツアー回ってるし、それでも今回結構延びて…1年近くやってる?(スタッフに聞く)」

●構想は1年前にあったんですか?

「普通に聞きやすい、でも外してない感じ、丸い感じのが作れたらいいなって。多分、今までとは、″えっ″っていう感じかもな。『覚醒』聞いてた人はね」

●ゲストについて少し聞かせてくれますか?

「カンパニー・フロウは最初からあったね。Boss君とはやりたいって思ったし。で、結局″流″(DJ Krush、Sak、Hideによる)ではやってるけど、俺、″さし″ではやってないすから」

●Boss The MCについて?

「どのぐらい前かな? 2年経つかな。人に聞かせて貰って、″これ、誰だ?″ってなって。で、知らない間に色々なレコーディングして(DJ Krush、少し嬉しそう)今、旅出ちゃってるけどね。彼はひさびさに衝撃的だったかな。言ってる内容とか。あまり直接的なのは駄目で、そういうの聞いてると全然イメージが湧かないっていうのがある。Boss君のは、一句一句、トラック作ってて想像が出来るっていうか」

●おー! 音楽を駆り立てるっていうことですね?

「そうそうそう、作る気力にさせてくれるっていうか。そこで、感じるか感じないかで、俺、ラッパーを判断しているかも知れない。TwigyとかRinoとか凄い好きだし、なんか似通った部分があるじゃない? こいつのトラックはすげえやりたい、想像できるし、イメージ出来るからっていう部類にBoss君は入ってる」

●きっと相手もそう思っているのじゃないですか?

「そうだね」

●言葉がサウンドへの想像力をかき立てること。

「2人のものだし、″はい、トラック作ったし、後は適当に乗っけて〜″じゃねえ」

●最後に、日本のヒップホップについての現状はどう思いますか?ここまでくるとはっきりとDJ Krushがヒップホップを始めた時期と変わったって言えますよね?

「うん。俺、ある一部の人しか聞いてないから…でも、みんなメジャー行ってるよね。大きくなったよね。だけど彼ら、どこを見てるのかね。日本の中でOKなのかね。逆に聞いてみたいよね。それとも、もっと色々な奴に聞かせたい、世界中の連中に聞かせたいっていうのがあるのか…うん、判らないけど…嬉しいの半分、逆に心配なの半分。こんだけ発達したからって海外に持っていった時、どれだけ通用するのかなって見てみたい気もするし。うん。環境は変わったんじゃない。みんな簡単に出してるし。それが逆に怖くて…」

DJ Krushはヒップホップを生きているから、こういう意見を言うことが出来るし、それに僕たちは首肯する。ヒップホップにのめり込んでもいない奴が、ヒップホップの批判をするのは安易だし、流されてたりもする。知ろう、DJ Krushの最後の質問への答えはヒップホップの歴史、その文化、精神性、サウンド、リリック、息づかいまでを知っている人間からだからこその杞憂だと。そして、そのなかで自らであることを忘れずに進んでいく意志が″漸″から聞こえてくるのだ。大航海なのだからリラックスしていこう、と。

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