SOUL SCREAM - FUTURE IS NOW/ON LINE RIDDIMより

ソウル・スクリームの最高傑作であり、日本のヒップホップ・クラシックとして後世まで語り継がれるだろう『The Positive Gravity〜案とヒント』から早3年。遂に第三章となるアルバム『FutureIs Now』が完成した。そこに留まることを許さず常に前へ進もうとするソウル・スクリームのポジティヴかつ潔い姿が満杯に詰まった素晴らしい作品を届けてくれた。メンバーの言葉を交え本作の魅力を掘り下げてみよう。

「あしたじゃ遅すぎる たしかな目でみきる今、しかない やらねばな今、いかない やるならば今」(「あしたFuture Is Now」)

何気ない毎日の中で“進化すること”を意識する。それは人間ならば誰でも感じる事ではないだろうか(それが世間から見て如何に顛末な事であったとしても、当人にとっては大きな問題だったりするものだ)。そこには常に“葛藤”の二文字が付きまとう事だろう。しかし、地に足が着いてさえいれば最終的に間違った方向には進まないはず。自分なりの世の中に対しての“問題意識”という物差し、そして“自分”という名の何らかの“確信”を抱いてポジティヴ・ヴァイブスを発してさえいれば…。

ソウル・スクリーム(以下SOSC)の発する音楽に接していていつも感じるのは、そんな“人間としての意識”である。言うまでもなくヴェテランの域にある彼らは、確かに様々な葛藤を抱えながら進化を遂げてきた。でなければ日本のヒップホップ史に残るクラシック、トータル・アルバムとして知られる前作『The Positive Gravity〜案とヒント』を越える作品をこんなに何気なく(はためには、だが)作れる筈もない。

「今回は“魂叫”とか自分達の(連作)テーマ曲を含めて1曲1曲、自分達のテンションを大切に作った感じ。一つの大きなテーマというか、脚本がない状態で。だからまとめるのに時間はかかったけど、自分としては全曲満足いく仕上りになりましたね」(DJ Celory)

先に“何気なく”という言葉を使ったのは不用意ゆえではない。それが彼らにとって自然だ、ということだ。だが、そこにはいくつものカベがあった筈。それを隠そうとしないところもまた、彼らの魅力、なのだ。

「ここ数年でヒップホップを取り巻く環境は大きく変わったじゃないですか。音からビジネスに至るまで。そこで時代に対する葛藤もありましたね。好きだけどそこには乗れない、という気持ちがある一方、そういう事をして凄いところも見せたい、みたいな。キャリアが長くなれば必ずそういうカベにブチ当たる訳で。“続々自由”ではリリックのテーマ的にはこういう新しい時代に自分達がハマってやるとしたらコレだ、というものが示せた」(E.G.G. Man)

「“4つの魂”では倍速(フロウ)もやってます。進化はするけど、その中で置いていくものと、ちゃんと持っていくものは明確なんですよ」(Hab I Scream)

「音的な面でもそれはありましたね。例えばサンプリングでやってきた人間なら今のトライトンでの“弾き”のトラックには最初抵抗を感じると思うんですけど、やってきた事は残しつつ時代のテクノロジーも取り入れる事でオリジナリティを出せる事がよく分った。全体のバランスにも拘って。その結果、バラエティに富んだアルバムになりました」(DJ Celory)

Feat.ゲスト(オーサカ=モノレールの中田亮からMuro+Boo、Dabo、Yoyo-C、そしてUzi)の絶妙な配し方、アルバムの進行をより意味あるものとするインタールード/スキットの存在、等がアルバムとしての精度を高めているのは言うまでもないが、タイトな関係で知られるこの4つの魂の各々の役割こそが作品の軸になっている点はこれまでと変わらない。そしてパーティ・チューンや日常モノだけでなく“東京温暖化”や“事件簿01”といったコンシャス・ラップを忘れていない点にもSOSCのSOSCたる所以、がある。

「今回はHabが特にテーマやコンセプトじゃない部分で感じたものをうたって、俺が具体的に引き出す、みたいな進め方の曲が多い」(E.G.G. Man)

中でも“失われつつある緑(自然)と人間の関係”を音楽によって取り戻す、というテーマでレゲエを昇華した“緑の森”(feat.Yoyo-C)は独立した一つの曲(つまりはシングル曲)としても愛されるべき“名曲”だ。

「これはキレイ事じゃないんですけど、生命、生物は大事にしないといけない。そういう意識は常に持ってる。レゲエはジャマイカに行ってヤラレましたね。今までの聴き方が間違ってた事を思い知らされました。耳じゃなく、心で、体で聴くものだと。Yoyoには相通じるものを感じるし、本当に素晴らしいアーティストだと思ってます。Respect!」(Hab I Scream)

「うたってるとよく解るんだけど、そのヴァイブスが自分にハネ返ってくるんですよね」(E.G.G. Man)

“時は流れていくのではない。一瞬一瞬の積み重ねなのだ”というイントロでのメッセージそのままの

「今しか出せないヴァイブス…つまりその時々の入魂のものが形になっている」(Hab I Scream)

この『Future Is Now』。紛うことなきニュー・クラシックの誕生、である。しかし、驚くべき事に彼らは当然、“今だ進行形”、なのだ…。

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