YOU THE ROCK - XTRM/ON LINE RIDDIMより

ヒップホップ番長であり、お茶の間の人気者でもあるYou The Rock★が実に4年ぶりとなるアルバム『XTRM』をドロップ。元来ヒップホップが持っている自由度満載ながら全編あの兄貴節はいつも以上に炸裂しまっくった本作、これぞネクスト・レヴェルだ。

DJクラッシュがしばしば回想しているように、10数年前、日本でのヒップホップは冗談でしかなかった。勿論、少数の勇敢な者だけがヒップホップを真剣に受け止め、このニューヨーク生まれのカルチャーをなんとか自分たちのものにしようと努力をしていたのである。そのことを忘れるわけにはいかない。しかし、同様に、日本でのヒップホップが冗談でしかなかったということも忘れない方がいい。

なぜなら、僕たち(MC、DJ、ブレイクダンサー、ライター、ヒップホップを愛する者たち)が築き上げていくべきことはまだまだ残っているからだ。数年後、誰かが日本のヒップホップは冗談だったと言い出す危険性はないだろうか? 日本にはヒップホップはなかったのだ、と。もともと、日本の土壌とヒップホップは合わなかったのだ、と。

それだけではない。数号前に僕が“現在の日本のヒップホップに必要なのはユナイトである”と書いた理由はストリートである程度長い間暮らしていたら判るはずだ。なぜなら、ストリートには危険がつきまとっているからである。ハード・ドラッグ、過剰な暴力……並べ立てなくても判るだろう。アメリカではストリート・ギャングのメンバーから脱出するために音楽の道を志すというのに、それがこの国でさかさまになったら、お笑いではないかと僕は思う。

僕たちは生き延びるために音楽をやるのであって(だからこそパーティは続けなければならない)、自分自身を破滅させるために音楽をやっているのではない。ハード・ドラッグは終わりへの道でしかない。それは完全停止を意味する。自分だけではなく、自分の友人や家族をも脆くも崩れさせるのがハード・ドラッグの行く末でしかない。ちょっとした好奇心からのたった1枚のアルミホイルや注射器が自分の人生を完全に停止させる。そのことを知っているのなら、やってもいいと思う。暴力も同様である。まだこの国ではアメリカほど銃ははびこっていない。

しかし、ナイフは違う。ナイフを持った時、人がどうなるか、知っている人は知っているだろう。固いブーツでコンクリートに踏みつけられるのが何を意味するのか、知っている者は骨の随まで知っているだろう。そして、東京で遊び人を数年間やっていれば、そんなことは常識の筈だ。その事情は他の土地でも同じだと思う。友人が刑務所にいないのなら、ナイフはいらないのではないだろうか。そして、いるのなら、もうナイフは捨てているだろう。

ユウ ザ ロック★はストリートを知っている。そのことは僕が自分の目で見てきた。そのうえで、彼はヒップホップのポジティヴなエネルギーを忘れていない。そのことを僕は誇らしく思うし、素晴らしいと思う。彼は今まで幾つものアルバムをリリースしてきたが、今回の『XTRM』は最高傑作である。ストリートを知ったうえでポジティヴになるのはそんなに容易ではない。

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